株式会社 データ・デザイン Artec3D|ハンディ型スマート3Dスキャナ

CASESTUDY 導入事例

建設/建築Artec EvaArtec LeoArtec Studio

Artec Evaの技術による水力発電設備の改修

フランス水力発電所

2023.02.13 更新

Artec Leo

◎課題:

老朽化した水力発電施設に二つの新たなタービンを設置して改修するために巨大な水力発電用吸出し管の寸法を完璧に記録する必要がありました。吸出し管の測量がほんの少しでも不正確であると、事業規格に不適合であるとして厳しい罰則が請負業者に与えられるだけではなく、重大な事故につながる可能性がありました。

◎ソリューション:

Artec Eva、 Artec Studio、 SOLIDWORKS

◎結果:

Artec Eva の導入によって、2つの吸出し管の全体の測量をほぼ五時間以内に完了し、プロジェクトの規定時間内で作業は終了しました。その後、スキャンデータを使用してミリ単位の精度を持つCADモデルが完成され、新しいタービンの設計と製作に利用されました。


背景

エンジニアのダミアン・デルモント氏はArtec Eva 3D スキャナを手にしながらフランスのジュラ山脈の奥深くにある長いコンクリート製の吸出し管の内部に立って、頭上四メートルに設置されている動きの止まったタービンを暗闇から見上げていました。そこではこれから行う作業のために、二つの古いバルブが反対側から押し寄せてくる膨大な量の水を堰き止めていました。

Artec Evaを使用した水力発電用吸出し管の一部のスキャニング

 

デルモント氏とプロジェクトパートナーのギョーム・デマルシュ氏は、数時間でタービンの下にある吸出し管の上部へ登るための足場を使いながら巨大な吸出し管を1ミリ単位でキャプチャしていきました。タービンの停止時間が1時間増えるごとに10メガワット以上、5,000世帯分の電力を発電している同発電所の収益が減少することになるため、彼らは迅速に作業を進める必要がありました。

さらに当時の川の水位が洪水レベルまで上昇しており、発電所は排水寸前の非常事態下で稼働していたことが作業を困難にしていました。

 

建設から八十七年を経て、改修が必要に

この水力発電施設は約1世紀前の1934年、第一次世界大戦の損害賠償の一部としてドイツの技術者によって建設されて以来稼働し続けてきました。2基のうち1基の発電装置に設置されているフランシス水車4つの交換時期になったとき、プロジェクトを担当した請負業者はその作業の複雑さを理解していました。

水力発電装置の側の水位の監視

 

タービンの製造業者がこの施設に最適な設計を行うために、作業チームはまずこの巨大で不規則な形状をした吸出し管の正確な寸法を知る必要がありました。この吸出し管は水流をタービンの中を通過させて、下方にある河川へ導く排水管の役割を果たすために設置されたものです。もし計測が不正確だった場合、タービンが規定の電力を発生できず発電所の性能基準を満たせなくなってしまう可能性がありました。

また、最悪の場合、電力の損失やキャビテーションの発生、さらにはタービンの振動レベルが過度になり2009年のサヤノシュンスカヤ水力発電所のような大事故につながる可能性もあったのです。

 

正確な記録の必要性

吸出し管の製作当初の原図は存在したものの、吸出し管の寸法は九十年近い歳月の間に確実に変化しており信頼できる技術資料としての使用は不可能でした。事業規格に少しでも不適合であれば、物理的損傷だけにとどまらずタービン製造業者と請負業者も罰金を科されたり、業務の質についての悪い評判が広がったりするなど、厳しい罰が待っています。

従来の測定方法では今回のプロジェクトの規定時間内で正確な記録をとることは不可能だったため、彼らは3DLM社のダミアン・デルモント氏に助けを求めました。デルモント氏は古い形式の構造物や機械部品の改修や検査、また、リバースエンジニアを含む産業用途向けの3Dスキャニングの専門家です。吸出し管が単純な幾何学的形状をしていれば従来のツールでも簡単に測量が可能でしたが、ミリ単位の精度を持つCADモデルを製作するために3Dスキャニングの方法を選択しました。

 

最適な3Dスキャナを求めて

数年前、デルモント氏は自身のエンジニアリング企業の設立時に、厳しいニーズに応える3Dスキャナを探し始めました。Artecのゴールドパートナーであるボレアル3D社により、世界中のエンジニアや専門家の間で愛用されているミリ単位以上の正確な計測を可能にするプロフェッショナル用ハンドヘルド式3Dスキャナ、Artec Evaを紹介されました。

Artec Eva

 

デルモント氏はこう述べました。「この事業はその性質上厳しい時間制限がありましたが、Evaの使用により2~3時間のうちに全長12メートル(39.3フィート)もの巨大な吸出し管の全てを正確にキャプチャすることができました。そのCADモデルは、新しいタービンの制作に必要な分析やCFD(計算流体力学)シミュレーションに使用可能なほどの高品質でした。」「どんな理由であれ与えられた時間制限の中で完成品を納入できなかったならば、このプロジェクトに関わる全員に迷惑がかかったでしょう。また、我々自身も今後のプロジェクトへの参加に支障をきたす可能性がありました。」

 

スキャンを繰り返して巨大な物体をキャプチャ

最終期限が刻一刻と近づく中、デルモント氏はプロジェクトの規模と複雑さを考慮し、助っ人としてギョーム・デマルシェ氏を呼び寄せました。二人は綿密に計画を立てた後、水力発電所へ到着しこの先の作業工程に対する戦略を立てました。

Artec Studio ソフトウェアのデータ処理でスキャンデータを正確に位置合わせする工程を速めるため、作業チームは吸出し管の内壁に塗料を吹き付けた他スキャニングのために十箇所のセクションに区切ることにしました。トータルシム社傘下のボルテック社のデザインエンジニアは、F1やモータースポーツで得た長年のCFDの専門知識を使用して最も困難なエンジニアリングの課題を解決し、クライアントに素晴らしいソリューションを提供することで、世界最速のトラックバイクを作るという目標を目指しています。

吸出し管のスキャンの様子

 

分割したセクションごとで作業することにより、以前よりも緊急事態発生時に吸出し管から即座に脱出できるようになりました。緊急事態の危険はすぐそばにありました。例を挙げると、スキャニング中すぐ後ろの囲い堰の最上部から水が溢れるまであと十センチの水位という状態で彼らは作業していました。天候が悪化した場合には水位が危険なレベルまで上昇する可能性があったため、安全技術者が堰の頂部に立って水位を四六時中監視しました。最悪の場合には吸出し管から一分以内に脱出しなければなりませんでした。

 

過酷な環境でのスキャニング

上部にあるバルブを通じて1分間に約10リットルも吸出し管の中に流れ込む水が彼らに常に危険を感じさせました。発電所の古いバルブは、住宅にあるバルブや蛇口とは違い、少量の水を流すように設計されています。水害のリスクを回避するため、作業チームは即席の木製のテーブルを組み立ててコンピュータと備品を設置しました。

「吸出し管の底面には深さ二センチほどの水が所々溜まっていましたが、Evaはそのような部分でさえも完璧にスキャンしていました」とデルモント氏は語っています。水の存在はスキャニングの支障には全くなりませんでした。

Artec Evaを利用して吸出し管の上部をキャプチャするボレアル社のデマルシェ氏

 

デルモント氏はこう続けます。「本来3Dスキャナは薄い水の膜さえもスキャンの邪魔になり、上手くスキャンすることができない場合があるとよく耳にしていたがEvaは別格でした。念のためそういった部分をレーザーによる遠隔測定法で調べましたが、Evaの測量は完璧だということが確認できました。」各セクションのスキャンに要した時間は約30分で、吸出し管全体のキャプチャは5時間ほどで完了しています。

「Artec Evaは、このような作業で理想的なスキャナでした。十分な精度を持ち、本来好ましくないような湿気が多くて水に濡れた環境で且つコンセントも無い真っ暗な中でも、ターゲットの設置も必要とせずにスキャンが可能でした。」

 

改修や検査用途に使用可能なCADモデルの作成

スキャニング作業中、デルモント氏は吸出し管の内壁表面に何百万リットルもの水が何十年もの歳月で通過する際に層状に堆積した、5~10ミリの厚さの鉱物の付着を発見しました。このような付着物は吸出し管の流動特性に影響するため、作成する3Dモデルに正確に記録される必要がありました。次に行われるCFDシミュレーションに、実際の水の流量を反映できなくなってしまうからです。

スキャニングを完了後の次の作業は、スキャンしたデータを処理してCADモデルを作成することでした。
「当初の計画通り、Artec Studioでのデータ処理の作業量はそれほど多くなく、基本的にはノイズの除去を少し行った後、10個のスキャンデータの位置合わせを行い、吸出し管の内壁全体の一つの3Dモデルを作成しました。」

スキャンデータを使用して完成した水力発電用吸出し管全体の3Dモデル

 

Artec Studioを利用したの『CADへの変換機能』

デルモント氏はArtec Studio搭載の『スキャンからCADへの変換機能』を利用して、吸出し管の3DモデルにCADの幾何形状データをフィットさせました。そして、そのデータをSTEP形式でSOLIDWORKSへエクスポートし、吸出し管のCADモデルのスケッチ、描画、および押し出しの際の参考として使用しました。

デルモント氏はこの機能の重要性を強調しながら、「もし、ワークフローの1つの段階で時間がかかり過ぎると、作業効率も落ちる上にコストも嵩み、我々が今後、他社と競いながら新しい業務を勝ち取っていくチャンスが損なわれてしまいます」と話しました。

「Artec Studioでは、スキャンデータから直接CADの幾何形状を作成できるので、品質面を犠牲にすることなく、貴重な時間を大幅に削減することができているのです」

 

完璧なスキャニング

デルモント氏は「Artec Evaの導入によってあらゆる寸法の物体、つまり水力発電用吸出し管のように巨大で不均一なものさえも一回でキャプチャできるようになりました。その結果、スキャニングのやり直しをすることも、発電所を再び止める必要も無くなりました」と付け加えました。

「スキャンの処理を始めた後に内壁の表面データの一部がないと気付いた場合に発電所に戻ってタービンを停止するとことは望ましくありません。現在はArtec Evaを使用しているため、スキャニングを完了して現場を離れるときにはすべてのデータが確実に記録できています。」

作業チームは最終期限より非常に早くCADモデルを完成させ、そのモデルはすべての規格に適合し、直ちにCFDシミュレーションやその他の分析に使用されました。

Artec Evaのスキャンデータを基に作成された吸出し管のCADモデル

数週間後、作業チームは水力発電所へ再度訪れ、自ら構築したワークフローに沿って二つ目の吸出し管をスキャンしそのCADモデルを作成しました。

 

改修やその他の用途に使用できる正確なCADモデル

両方の吸出し管のCADモデルが完成して利用可能になったため、例えば、Artec Studioで距離マッピングツールを使用して3Dスキャニングによる吸出し管の検査をする際に、参照モデルとして使用できるようになりました。CADモデルとスキャンデータの偏差をカラーマップで簡単に確認できます。

現在、フランスだけでもこのような改修を必要とする古い水力発電設備が何十基も存在しているため、世界中にも同様な需要があるはずです。

 

図面がなく複雑なプロジェクトへの活用

デルモント氏は最後にこう語りました。「今回の吸出し管のような複雑な形状をもつ非常に大きな物体の改修の最大ともいえる課題は、いかに理想的な精度を達成できるかということです。それと同時に、それぞれのプロジェクトで自身のリバースエンジニアリング技術をどう適用するかという点も重要です。」

「Artec Evaを使用して行った全てのプロジェクトにおいて、製作当時の設計資料の原図や記録が入手できない場合に欠落している情報を補う助けとなる貴重なソリューションであることが分かりました。今までに携わった改修業務の約70%がこのケースに当たります」

「Artec Evaを使用して、わずか数センチの大きさの物体から数メートルのものに至るまで、正確な測量を行った上でCADモデルの作成を行っています。この汎用性の高さがEvaの最大の強みの一つです。その結果完成したCADモデルは改修や検査、補修管理には欠かせない上、あらゆる用途に活用できます。」

また、当時デルモント氏らはArtec Evaを使用しましたが、現在では完全ワイヤレスでのスキャンを実現したArtec Leoがリリースされています。
Artec Leoはスキャン中の様子をリアルタイムで搭載されたタッチディスプレイから確認でき、スキャンスピードも高速です。Artec Leoはスキャン作業中にPCが不要であるため、PCや備品を設置するための木製のテーブルさえ不要になるでしょう。

Artec Leo

 

 

 



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