CASESTUDY 導入事例
工業デザイン&製造研究&教育Artec LeoArtec StudioArtec Space Spider
Artec Leoを使用した高速競技用自転車の設計実現
ボルテック社
2023.01.24 更新
◎課題:
あるスポーツ研究開発会社は、非常に空気力学的なレーシングバイクの設計に使用するため、さまざまなプロ用レーシングバイクを高解像度3Dでデジタルにキャプチャする必要がありました。
◎ソリューション:
Artec Leo, Artec Space Spider, Artec Studio, Geomagic Wrap
◎結果:
プロ用ハンドヘルドスキャナArtec Leoを使って、複数の競技用自転車を3Dでキャプチャしました。バイクのフレームやコンポーネントの正確なジオメトリを含む精密な3Dモデルは、超高精度3DスキャナArtec Space Spiderの3Dデータと共にFEAとCFD解析で相乗効果を発揮し、優れた競技用自転車をデザインすることができました。
背景
プロの自転車競技やオリンピック自転車競技の世界では、空気抵抗は大きな障害となります。しかし、最新のハンドヘルド3Dスキャン技術と最先端のCFD(数値流体力学)解析、CADの専門知識、デザイン思考を駆使して、英国に拠点を置くボルテック社は、WX-R社のエンジニアと共同で空気を切り裂くような自転車を生み出し、すでに自転車業界全体に波及させています。
Vorteq WX-R 競技用自転車
自転車が受ける空気抵抗の最大80%は身体によるもので、残りの20%ほどは自転車によるものですが、この数字は定かではありません。例えば、ボルテック社のスキンスーツを着用し、通常のサイクリングウェアと比較してCdA(抗力係数×面積)を劇的に減少させるなど、ライダーの身体がすでに可能な限り空気力学的に抵抗がなくなっているとしましょう。限界の速さを追求するための論理的な次のステップは、自転車自体の合理化に焦点を当てることです。そうすることで、時間とエネルギーを大幅に節約することができるのです。
例えば、トライアスロンの5時間のステージでは、エアロダイナミックバイクと通常のレーシングバイクの違いは、数分早くゴールすることを意味します。しかし、もっと速く、どんなに強いレーサーにも負けない自転車はないでしょうか?
WX-R Vorteqトラックのフォーク
レーシングバイクメーカーはここ数十年もの間、アスファルトの上でマシンを最高の状態にするために努力してきましたが、その多くは競合他社に倣ったデザインでした。
時には、風洞やCFDを駆使したテストも行われましたが、重要な側面であるライダー自身や自転車の乗り方などは無視さえれてきました。しかし、それこそが重要なデータです。
トータルシム社傘下のボルテック社のデザインエンジニアは、F1やモータースポーツで得た長年のCFDの専門知識を使用して最も困難なエンジニアリングの課題を解決し、クライアントに素晴らしいソリューションを提供することで、世界最速のトラックバイクを作るという目標を目指しています。
ボルテック社のTokyoエディションのハンドルバー
プロジェクトの第一段階として、プロ用のレーシングバイクを高解像度で3Dキャプチャし、その3Dモデルをもとに、最新のCFD解析や風洞実験、自転車のオーナーの運動特性の解析などを行いました。
正確さ、キャプチャの速度、およびワイヤレス機能の要件をすべて満たすことができるプロ仕様ハンドヘルド3DスキャナとしてArtec Leoが選ばれています。この優秀なケーブル不要の3Dスキャナは、中型のオブジェクトを美しい色でキャプチャすることが可能です。
Artec社のアンバサダーである、セントラルスキャニング社からボルテック社に推奨および提供されているArtec Leoは、プロ用のレーシングバイクを1分以内で完全にキャプチャできます。
ワイヤレス3Dスキャナ Artec Leo
セントラルスキャニング社のアレックス・チュン氏は次のように述べました。「ボルテック社の親会社であるトータルシム社は2019年1月にイギリスで最初にArtec Leoを手に入れ、それと共にどんどん彼らの技術は進化していきました。Artecの経験豊富なユーザーであったボルテック社は、Artec Leoのスピード、携帯性、操作性の向上をすぐに活用して、スキンスーツのデザインワークフローのこれまでの常識を急激に変えました。彼らのワークフローは、自転車に乗った選手をその場でArtec Leoを使用し3Dキャプチャするというものでした。そして今、Vorteq WX-RプロジェクトによりArtec Leoの比類のないスキャン能力と柔軟性の相乗効果を最大限に活用して、本当に驚くべきレーシングバイクの作成することができました。セントラルスキャニング社は、トータルシム社とボルテック社をイノベーションのパートナーとしてサポートできることを誇りに思っています。」
Artec LeoでSSEH風洞内のライダーと自転車を3Dスキャンする様子
ボルテック社の計測エンジニアであるサム・キルター氏は「Leoを使用して、さまざまな自転車をスキャンして正確なデジタルモデルを取得し、CFDシステムでそれらを比較して、空気抵抗の違いを確認しました。その後、パフォーマンスを向上させるために3Dモデルに構造調整と変更を加えました。そうすることで、複数の自転車から最高のものを抽出して1つのデザインにまとめることができています。」と説明しています。
キルター氏は「設計プロセスを進めることと並行して、シルバーストーン(SSEH)の風洞内でこれらの自転車のライダーを分析し、彼らがどのようにパワーを落とし、自転車全体にどのように影響するかを正確に把握しました。そうすることで得られた非常に貴重な大量のデータは、現在の自転車設計の重要な要素となっています。」と続けています。
開発の中間段階では各ライダーのバイクをマウントしたリグに装着し、クランク部分にさまざまなレベルの荷重をかけました。そうすることでフレームにゆがみを加えて、どの程度たわみや曲がりが発生しているのかを確認しました。これは、ペダルからクランクを経てホイール軸に伝わるトルクの物理現象を再現するために、ピークパワー発生まで行っています。そして、Artec Space Spider 3Dスキャナを使ってバイクのフレームを正確にキャプチャし、そのスキャンから、フレームがどこでどのようにたわんでいるかを正確に確認することができます。
スキャンしたフレームはすべてカーボンファイバーだったのである程度のたわみは発生するものです。ライダーのフィードバックから、ライダーは自分のバイクを気に入っていること、柔軟性や応答性のレベルが高いことがわかったので、これを定量化したいと考えました。しかし、ホイールから奪われたパワーはフレームに吸収されてしまうためライダーからエネルギーを奪ってしまいます。そのため、どこでたわみが発生しているのかを把握する必要がありました。
Vorteq Tokyoの固定位置サドルマウント
キルター氏とボルテック社のチームは、Artec Leoからのスキャンを処理するための独自のワークフローを作成しました。後処理ソフトウェアであるArtec Studioにスキャンをインポートし、すべてが適切に表示されているかを確認します。この時点で問題があることは決してないですが、ざっと目を通しておきます。その後、消しゴムツールで不要なデータを削除・複数ショット同士の自動位置合わせ処理を行います。
点群からメッシュに変換する際は部品や剛体構造の場合はエッジを際立たせることができるシャープメッシュ化、スキンスーツ用のボディスキャンを処理する場合は人体の有機的形状を考慮しスムースメッシュ化を使用しています。
シャープメッシュ化では、自転車のモデルに必要な、複雑な幾何学的ディテールをすべて保持することができます。その後、OBJファイルとしてGeomagic Wrapにエクスポートし、いくつかの編集ステップを実施します。
Vorteq Tokyo 4 スポークフロントウィール
ボルテック社は研究開発段階から、イギリスのバイクメーカーであるワークス社とパートナーシップを組みました。
Vorteq WX-Rはすでに大会で使用されており、東京オリンピックでも使用されました。世界選手権自転車競技大会トラックレースでは、メダル2個、生涯最高記録3個、全国記録2個、おまけにアジア新記録を達成に貢献しました。
ベルリンで開催された2020世界選手権自転車競技大会トラックレースで、アジズルハスニ アワン氏がVorteq WX-Rで優勝しました
世界最速のスキンスーツとトラックバイクの製作に加え、ボルテック社はArtec LeoとSpiderスキャナを使ったサイクリング関連の3Dスキャンサービスを、イギリスのオフィス内または世界のどこでも提供しています。