CASESTUDY 導入事例
研究&教育Artec LeoArtec StudioArtec Space Spider
Artec Space Spiderでティラノサウルスの化石を3Dモデル化
長崎市恐竜博物館
2023.02.21 更新
◎課題:
長崎の日本恐竜博物館に展示されている6600万年前のティラノサウルスの標本を新たに3D復元するために、以前にArtec Evaでスキャンされた際の骨の欠損、交換、低品質のモデルを、より高品質で繊細に再現すること。
◎ソリューション:
Artec Space Spider, Artec Studio, Autodesk Maya, ZBrush, Geomagic Wrap, Simplify3D and Cura; 3D Printers – Ultimaker, Builder Extreme 1500
◎結果:
高解像度3Dでスキャンされた化石は、3Dプリントして最終的な骨格に組み立てることができた。
背景
2014年から2016年にトリックス(このティラノサウルスの愛称)の最初の復元に成功した後 、ナチュラリス生物多様性センターのチームは新な3Dスキャナが必要だと考えていました。
オランダのサプライヤーとの相談や調査を通じて検討した結果、チームは精度、パフォーマンス、使いやすさの点で、彼らの様々なタスクに最適なArtec Space Spiderを採用することに決定しました。
ナチュラリスの恐竜部門プロジェクトマネージャーであるハネケ・ジェイコブズ氏は、Artec Space Spiderで恐竜を再現できることを非常に喜んでいます。
これまで地球上に生息していた捕食動物の中で最もサイズの大きいこの恐竜には、最高のスキャン機能を必要としていましたが、Artec3Dスキャナはこれを実現することに成功しました。また2016年にArtec Evaでスキャンを行ったデータと今回のArtec Space Spiderのデータを組み合わせることが可能になっています。
軽量かつパワフルな Artec Space Spiderは、骨や様々な種類の化石等の複雑な幾何学的要素をもつ小さなのパーツを高解像度で正確にスキャンすることができます。また、ナチュラリスは長崎の日本恐竜博物館とトリックスの最初のコピー、その名も 「3Dトリックス 」を製作する契約を結んでいたこともあり、プロジェクトに良いタイミングで取り組むことができました。
3D トリックス:3Dスキャンから組み立てられた骨格へ
Artec Space SpiderとArtec Studioソフトウェアに関する簡単なトレーニングの後、3Dモデラーでナチュラリスの解剖学者であるパシャ・ヴァン・ビジラート氏は、ティラノサウルスの骨格のデジタル復元第2弾の責任者として、作業に取り掛かりました。
パシャ・ヴァン・ビジラート氏がArtec Space Spiderで仕事に取り掛かる様子
トリックスの骨格は約320個の骨で構成されています。これらのほとんどは、古い肋骨や尻尾、脊椎骨など、Artec Evaで既にスキャンされていたので、パシャ氏は骨格全体を再度スキャンする必要はありませんでした。そのため今回は、以前のスキャンで細部が十分に再現できていない足の骨や顎、頭蓋骨などの箇所や、より良い品質で再現したい箇所だけを再スキャンしました。これによって、パシャ氏は多くの時間を節約することができ、最終的に骨格に足りない要素のモデリングや取り付け作業に集中することができました。
パシャ氏が最初に行ったのは、Autodesk Mayaを使用して、既にスキャンされた全ての3Dモデルを、ティラノサウルスのリアルで威圧的なポーズにすることでした。その後、彼は復元する必要がある特定の骨を判断し、再度スキャンを行いました。
ナチュラリス生物多様性センターのティラノサウルスの骨格の隣に
3Dプリントされた3Dトリックスの上顎パーツを並べた様子
不足していたスキャンを補うのにたった数日しかかかりませんでしたが、それらを処理して1つの完全な3Dモデルに結合させるのには数週間かかりました。
後処理のワークフローは、それぞれ骨によって異なるものになりました。骨を全方向からスキャンできた場合は、Artec Studioでスキャンデータの位置合わせをして、地面や周囲にあった不要なデータを取り除き、メッシュ化を実行します。今回のプロジェクトにはテクスチャは必要ありませんが、完成したメッシュデータに色をマッピングすることも可能です。
骨が完全に復元される前にスキャンが行われた場合や、既に骨組みに取り付けられてからスキャンが行われた場合は、スキャンデータが不十分である箇所があるため、Artec StudioやGeomagic Wrap、Zbrushを組み合わせて、不足しているデータを補うために大規模な後処理を行う必要がありました。
可能な限り、平らな部分を埋めるために様々な骨の断面をミラーリングしたり、移植したりしました。また場合によっては、トリックスや他のティラノサウルスの標本の写真を参考に欠けている部分を手作業で彫刻しました。
トリックスの尻尾の固定化と新しいポーズ
新しい3Dトリックスは可能な限り本物らしく見えるように、トリックスが他の標本から移植してきた状態の悪い鋳造骨を交換するなどの処置がとられました。また、長崎の博物館からの依頼で、攻撃的なポーズをとっている3Dトリックスを作成する必要がありました。
ナチュラリスが作成した攻撃的なポーズの3Dトリックス
パシャ氏は恐竜の足跡の化石を見て、トリックスや他のティラノサウルスの大きく開いた脚は、正しくないことを突き止めました。3Dトリックスをよりリアルにするために、パシャ氏は両膝の位置や脊柱の骨を近くに移動させました。
3Dプリンティングへ
処理が終わると、パシャ氏は骨格のデータをRhinoにインポートし、組み立てられた骨格を内側から支える鉄骨フレームをモデル化しました。
3D トリックスの下顎を3Dプリントしている様子
完成したモデルをSimplify3DとCuraで3Dプリントするためにスライスした後、全ての骨を3Dプリントして、色付けを行います。爪や歯などの細かいパーツは、リサイクルPLA(ポリ乳酸)バイオプラスチックを使用して、数台の小型Ultimakerプリンタでプリントしました。このプラスチックは、特別な条件下で生物学的に分解できる強力で耐久性のある素材です。大きな骨は、大型3DプリンタのBuilder Extreme 15003Dプリンタを2台使用してプリントしました。
ナチュラリス生物多様性センターに展示されている、3Dトリックスの完全に組み立てられた状態の骨格
最後に骨に着色し、3Dモデルを参考にあらかじめ設計した棒状のフレームに1つずつ通していきます。
1年近くかけて3Dプリントし、4500万平方mm近いアクリル絵の具を使って塗装し、2020年末に3Dトリックスの特殊復元が完成しました。実際、骨のプリントと組み立てはナチュラリスのライブ・サイエンス展示会場で行われたため、来場者全員が全工程を観覧することができました。この新しいティラノサウルスは、日本へと出荷されていきます。
ナチュラリスにて3Dトリックスを組み立てている様子
Leoをこのプロジェクトに導入
この3Dトリックスが作成完了した後、ナチュラリスのチームは新しいツールとしてArtec3Dスキャナをもう1台追加することに決めました。恐竜のサイズを考え、Artec Evaの上位モデルであるArtec Leoの導入を決定しました。
Artec Leoはスキャンスピードが非常にはやいので、大きな骨も簡単にスキャンすることができ、時間を大幅に節約することができます。小さい骨にはSpace Spiderを、大きい骨にはLeoを使用し、2台のスキャナのデータを組み合わせることで最適な3Dモデルの作成が可能になります。
2つのArtec3Dスキャナが手元にあることで、ハンネケ氏のチームは、他の部署からもスキャンのリクエストを受けるようになりました。大きなマンモスの腰の骨をスキャンし、そのデータを元に3Dプリントし、既に骨格に取り付けられました。
ナチュラリスのチーム(左から右へ):
マイケル・ヴァン・リーウェン氏、パシャ・ヴァン・ビジレート氏、ドナルド・ヴァンダー・バーグ氏、
ハンネケ・ジェイコブズ氏、アシュウィン・ヴァン・グレヴェンホフ氏、ウィルコ・デ・ピネダ氏