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フォトグラメトリ vs 3Dスキャン
3Dモデルを作成する際は、まずそのモデルをどのように使うかを踏まえて最適なツールを選ぶことから始まります。つまり、3Dモデルの用途や目的がツール選びの基本となります。
3Dモデル作成で人気のあるツールには、3Dスキャンやフォトグラメトリがあります。本記事では、プロジェクトの種類に応じてどのツールを選ぶべきか、また状況によってこれらのツールを組み合わせる方法について解説します。
まずはじめに、3Dスキャンの仕組みと市場で入手可能な主な3Dスキャナの種類をご紹介します。
3Dスキャンとは、物理的なオブジェクトの形状や多くの場合は色の情報をデジタル化する技術です。PC上にオブジェクトのデジタルレプリカを作成できれば、検査や測定、修正、シミュレーションやストレステストの実施、共有、コラボレーション、さらにはARやVR環境への取り込みなど、さまざまな活用が可能になります。
3Dスキャンは産業や医療、自動車、CGI、航空宇宙、そして考古学などの分野でオブジェクトの検査や測定、そしてデジタル化にますます使用されるようになってきました。
ではオブジェクトの正確なデジタルレプリカはどのように作成するのでしょうか?答えはシンプルで、3Dスキャナを使用することです。
3Dスキャン技術は、過去数十年の間に大きく進化してきました。従来からの実績のある技術が改良される一方で、新しい方式もゼロから開発され市場に登場しています。現在、最も一般的に使われている3Dスキャナは、構造化光スキャナとレーザー三角測量スキャナの2種類です。
構造化光とレーザー三角測量
これらのスキャナの仕組みは非常に似ています。基本的にはスキャナが光をオブジェクトの表面に投影し、それが反射される際の光の歪みをカメラで捉えて記録します。両者の違いは構造化光スキャナが白または青色のグリッド状の光を投影するのに対し、レーザー三角測量スキャナはシンプルな一本のレーザー線を照射する点です。
スキャン中、スキャナはオブジェクト表面上の数百万点に及ぶデータを取得します。スキャナのソフトウェアは光の歪み具合から各点の位置を割り出し、デジタル空間で正確な3D形状を再構築します。こうして得られる3Dデータは「点群」と呼ばれ、これをもとに3Dメッシュモデルへと変換することができます。メッシュの構成は使用するソフトウェアによって異なりますが、通常は三角形または四角形の面が数百万に連なって形成されます。
この変換処理は、リバースエンジニアリング、CAD設計、AR/VRアプリケーションなど、さまざまな用途に応じた後工程を可能にするために欠かせないステップです。
構造化光やレーザーによる3Dスキャン技術は、数ミリから数メートル程度の比較的小さなオブジェクトのスキャンに特に適しています。また、ハンドヘルド型の3Dスキャナを使用することでスキャン作業は非常にスピーディーに行うことができ、完成した3Dモデルは高精度かつ原物に非常に忠実な仕上がりになります。
ToF(タイムオブフライト)型3Dスキャン技術
オブジェクトの高さや長さが数十メートルを超えるような大きな対象をスキャンする場合は、パルス発振型レーザー3Dスキャナ(ToF:Time of Flight)の使用をおすすめします。このタイプのスキャナは長距離スキャナとして分類されることがあり、構造化光スキャナやレーザー三角測量スキャナとは異なり、対象との距離が数メートルから数百、場合によっては数千メートルに及ぶこともあります。では、この技術はどのように機能するのでしょうか?
ToFスキャナは、まずレーザーパルスを対象に向けて発射し、その反射をスキャナの受信機が検出します。スキャナはパルスが戻ってくるまでの時間(わずか1秒未満)を計算し、その情報をもとに表面の位置を測定します。このプロセスを数百万回繰り返して得られる膨大なデータによって、オブジェクトの詳細な3D画像が生成されます。
精度は使用する機材やスキャン対象の規模に左右されますが、例えば建物を固定式スキャナでスキャンする場合は、数ミリメートル単位の高精度が期待できまが、一方で飛行機やドローンから広範囲の地形をスキャンする場合は、許容誤差が数センチメートルに達することもあります。
3Dスキャナの長所と短所
ここまで見てきたように、構造化光スキャナやレーザー三角測量スキャナ、そしてToF(Time of Flight)型スキャナは、比較的小さなオブジェクトから大規模な構造物まで、正確で高品質なデジタルレプリカの作成を可能にする技術です。こうした高精度の3Dスキャンソリューションによって得られる空間データの正確さは、わずかな誤差が重大な事故や不具合につながるおそれのある分野において、特に重要な役割を果たしています。
現在3Dスキャナは工業デザインやエンジニアリングの現場で広く活用されており、電子機器の設計開発、配管や構造物の安定性の確認、大量生産部品の品質管理など、高度な専門性が求められるさまざまな業務において信頼性の高いツールとして利用されています。
ヘルスケア分野では3Dスキャナの活用は多岐にわたります。たとえば完全にフィットし、長期間使用可能なカスタムメイドの補綴物やインプラントの設計から、形成外科手術のビフォーアフターの比較や評価に至るまで、その用途は非常に広いものです。
また、芸術・エンターテインメント・科学・博物館分野では、俳優のデジタルツインの生成、発掘現場や保管庫での数百万年前の化石のデジタル化
といった形で活用されており、アーカイブや再現、研究の重要なツールとなっています。さらに3Dスキャナは解剖学、古生物学、宇宙探査などの最先端研究にも役立っており、現実世界の情報を高精度でデジタル化する手段として重宝されています。
そして特筆すべきは、現在法医学や法人類学の分野でも注目されている点です。多くの専門家が犯罪現場を迅速かつ正確に記録するための最適な方法として、3Dスキャン技術を取り入れ始めています。
これらの多彩な用途に加え、3Dスキャナは操作性の高さでも際立っています。特にハンドヘルド型スキャナは、ユーザーが対象物の周囲を自由に動きながら、あらゆる面を効率的にスキャンできる軽量で扱いやすいデバイスです。中でも最先端の機種にはタッチスクリーンを搭載したオールインワン型のモデルもあります。こうしたスキャナではノートPCやタブレットを別途用意する必要がなく、スキャナ本体のディスプレイ上でスキャンの進行状況をリアルタイムに確認することができます。
つまり、ケーブルや外部デバイスを気にすることなく、完全ワイヤレスで自由にオブジェクトの周囲を移動しながら作業が可能となるのです。
またスキャナの画面に表示されるリアルタイムのフィードバックは、対象物をしっかりキャプチャできているかどうかを素早くかつ簡単に確認するのに非常に役立ちます。フォトグラメトリの長所と短所については後ほど詳しく解説いたしますが、内蔵ディスプレイ付きの3Dスキャナの「その場での確認機能」は、明確なアドバンテージと言えるでしょう。
フォトグラメトリとは、複数の写真を組み合わせてオブジェクトの3Dモデルを生成する技術です。3Dスキャンのような専用のスキャナは必要なく、写真さえあれば始められます。つまり特別な機材は不要で、スマートフォンやドローンなど、カメラを搭載したほぼすべてのデバイスで撮影した写真を使えます。
撮影した2D写真はフォトグラメトリ用のソフトウェアで処理されますが、この処理にはカメラの焦点距離やレンズの歪み、解像度、撮影時のカメラの位置や角度、視野角、さらには隣接写真との重なり合いなど、多くの要素が考慮されます。
フォトグラメトリの長所と短所
フォトグラメトリの大きな利点の一つは、使用するカメラが手頃な価格で手に入ることです。現在のスマートフォンには16MPのカメラが搭載されており、十分な色解像度で画像撮影が可能です。3Dスキャンと同様にフォトグラメトリも非接触でオブジェクトをデジタル化できる技術で、使用するハードウェアはプロ仕様のカメラでもスマートフォンでも軽量で持ち運びやすく、特別な訓練も不要です。また3Dスキャンとは異なり、オブジェクトのサイズに応じて機器を選ぶ必要がなく、極小から大型まであらゆる対象に対応できます。
写真の品質が高いほど、出来上がる3Dモデルの品質も向上します。隙間の無い3Dモデルを作成するためにはオブジェクト全体をカバーする写真が必要で、数十から数百、場合によっては数千枚の撮影が求められます。これに対し3Dスキャナは自動で瞬時にデータを取得できるため、この点がフォトグラメトリの大きな制約となります。特に人間の3Dモデル作成ではモデルが長時間じっとしていなければならず、実用的でない場合が多いです。
またフォトグラメトリを現場で行うのは非常に難しく、特にブースの設置が必要な場合はなおさらです。たとえば広い敷地の中央など遠隔地でスキャンする場合、かさばるブースを設置するのは非常に困難です。近くにいない人をスキャンする場合は、複数のカメラを設置する複雑なセットを組むよりも、モデル本人を3Dスキャナでスキャンした方が簡単です。
またオブジェクトを撮影する際は、全体に均一な照明を当てる必要があります。明るさが均一でない写真の場合、後から写真の明るさを調整するのに何日もかかってしまう可能性があります。これは特に晴れた日の屋外で撮影する場合に当てはまります。太陽の当たる側は明るく、影の側は暗くなってしまうからです。
したがって、写真撮影には曇りの日を選ぶのが理想的です。もし処理の段階でサーフェスの一部が十分に撮影されていないことに気づいた場合は、現地に戻り、照明を含めて前回とまったく同じ環境条件を再現しなければなりません。運が良ければ、最初の撮影で作成したデータベースに新しく撮り直した写真を追加できることもありますが、多くの場合はオブジェクトやシーン全体を一から撮り直す必要があります。
こうしたフォトグラメトリの制約を回避するために、人工光源に投資し、カメラに偏光フィルターを装着する方法があります。交差偏光の設定により照明の反射によってぼやけてしまう部分が減り、より詳細で正確な3Dモデルを作成することが可能です。ただしこの方法には、偏光装置の準備や撮影費用の増加といったデメリットもあります。また偏光フィルターが異なる素材で作られている場合、モデルの外観に色変化や歪みが生じる可能性もあり、必ずしも完全な解決策とは言えません。
結局のところ、正確な線形測定を提供する3Dスキャンとは異なり、フォトグラメトリで作成されたモデルはオブジェクトの縮尺や比率が歪んでいる可能性があります。これはフォトグラメトリの技術が使用する画像の品質に大きく依存しているためで、照明条件や解像度、さらには被写体の動きによるブレなど、さまざまな要因の影響を受けやすいからです。そのため最終的にできあがるモデルは抽象的なパーツの組み合わせに過ぎず、リバースエンジニアリングや品質検査など、高い精度が求められる用途には適していません。
多くの場合、3Dモデルはできるだけ正確で、原物に近い色でレンダリングしたいものです。そこで3Dスキャンと写真撮影を組み合わせる方法が注目されます。実際にこのアプローチが用いられたのが、米国の前大統領バラク・オバマ氏の史上初となる大統領の3Dポートレート作成の際でした。このプロジェクトでは、構造化光スキャナ(Artec Eva)とフォトグラメトリが相乗的に活用されました。
フォトグラメトリは人間の3Dモデルを作る際、特にスケジュールが厳しい大統領のような被写体には扱いが難しい技術です。そこで取られた回避策は、前大統領の周囲に特別な足場を設け80台ものカメラで同時に撮影することでした。これにより、短時間でできる限り多くの色や色合い、色相が取得され、Artec Evaは頭部の形状を高精度にキャプチャできました。
別のケースでは、複数のデータセットを組み合わせて車全体の3Dモデルが作成されました。このプロジェクトでは、ワイヤレスのArtec Leoが車体および内装のジオメトリを正確にキャプチャしました。工業デザイナーやエンジニアにとっては、このジオメトリ情報だけで十分な場合が多いです。
しかしビデオゲーム開発の分野では、車の力学的な正確さよりも鮮やかな色彩が重視されることが多いため、ゲーム開発者はカラー写真を3Dメッシュモデルに重ねて使いたいと考えています。こうした技術をゲームに取り入れることで、車の見た目がよりリアルになり、ユーザーエクスペリエンスが大きく向上します。
またソフトウェア面では、Artec Studioの存在が非常に重要です。3Dスキャンとフォトグラメトリを組み合わせる作業が以前よりも簡単になりました。スキャンデータのキャプチャや処理に加え、高解像度写真をモデルにテクスチャとして適用するための写真位置合わせアルゴリズムも備わっているため、多くの場合色の鮮明さが向上し、より現実的なスキャンが実現しています。
そのような事例の一つとして、Artec Studioの3Dスキャンとフォトグラメトリの連携機能を活用し、ジャングルをイメージした複雑な模様が特徴の椅子をデジタル化したプロジェクトがあります。写真はArtec Leoで取得したスキャンデータと組み合わせてテクスチャファイルを作成し、このソフトウェアのテクスチャ用アルゴリズムを用いて3Dメッシュにマッピングされました。この機能が使われたのは色鮮やかな椅子のモデルだけではありません。高解像度の3DスキャンデータをキャプチャできるArtec Space Spiderで取得したNikeのスニーカーの140枚の高解像度写真にも同様の手法が用いられました。
プロセスの完了には30分強かかりましたが、その結果Nike Kyrie 7バスケットボールシューズの驚くほどリアルな3Dスキャンが完成しました。この有名なシューズのモデルは、Nikeの360度全方向のトラクションに対応したインソールの細部までしっかりテクスチャリングされた複製が特徴です。スキャン時にはシワを避けるため、スニーカーは逆さまに置かれました。
類似のプロジェクトでは、スポーツブランドASICSがフォトテクスチャリング技術を用いて、品質検査や革新的なアニメーションを活用したマーケティングコンテンツ向けに、非常にリアルなフットウェアモデルを制作しました。これらの事例はいずれも、Artecのハードウェアとソフトウェアを組み合わせることで得られる高いディテールレベルを示しています。
結論
フォトグラメトリは美しいビジュアルを生み出せる点でビデオゲーム開発者から高く評価され、依然として人気があります。一方で、3Dスキャンは現実世界のオブジェクトや人物をデジタル化する方法としてより高速かつ汎用性が高いため、ゲーム業界でも着実に支持を集めています。
さらにハンドヘルド3Dスキャンはヘルスケア分野でも注目を集めており、例えば患者の四肢を迅速かつ正確に測定することで、よりフィットするカスタムインソールの作成が進んでいます。
このように、精度が最優先で、オブジェクトを高解像度かつ瞬時にキャプチャしたい場合や、3DモデルをCADアプリケーションで活用したい場合は、プロ仕様の3Dスキャナと専用ソフトウェアの使用が推奨されます。
もし予算に余裕があり急ぐ必要がなければ、3Dスキャンとフォトグラメトリの組み合わせが理想的です。こうすることでモデルは正確なジオメトリと鮮やかで詳細なテクスチャの両方を備えた、よりリアルなデジタル複製になります。