-文化財
スマートフォン写真からフルカラー3Dプリントへ|文化財レプリカ制作
2026.07.30 更新
セルビア・ベオグラードに立つ、風化したブロンズ製の「漁師像」。スマートフォンで撮った約350枚の写真と、AIフォトグラメトリー、フルカラー3Dプリントを組み合わせることで、苔や傷の質感までも再現したレプリカが生まれました。Artec 3D正規代理店として、その舞台裏をご紹介します。
■課題:
苔・カビ・傷など経年変化に富んだ等身大彫像を、質感ごと精密に複製する。
■ソリューション:
iPhone撮影 + Artec StudioのAIフォトグラメトリー + Mimakiのフルカラー3Dプリント
■結果:
撮影15分・プリント14時間強で、実物さながらのレプリカが完成
左:Artec StudioのAIフォトグラメトリーで再構成した3Dモデル 右:Mimaki 3DUJ-553によるフルカラー3Dプリントレプリカ (画像提供:Artec 3D)
01記録が難しいブロンズ像に挑む
舞台となったのは、ベオグラード旧市街の広場に立つ、ヘビと格闘する漁師をかたどった高さ約1.5メートルのブロンズ像です。長年の風雨にさらされ、表面には苔やカビ、細かな傷が複雑に入り組んでおり、フォトグラメトリーにとっては格好の”耐久テスト”となる被写体でした。
現地での撮影を指揮したArtec 3Dのビデオディレクター、グリゴリー・ガラシュク氏がこの像を選んだ理由は、まさにその一筋縄ではいかない表現の豊かさにありました。苔の付き方や損傷の具合、素材ごとに異なるテクスチャの変化が、どこまで忠実にデジタルモデルへ映し込まれるのかを検証する狙いがあったといいます。
02撮影からモデル化まで、わずか15分
実際の撮影に要した時間はたった15分。像の周りを2周しながら、動画の記録とフォトグラメトリー用の撮影を同時に進め、集めた静止画はおよそ350枚にのぼりました。使用したのは特別な機材ではなく、一般的なスマートフォンのカメラです。角度さえ意識すれば、短い動画からでも十分な素材になるといいます。
撮影後の工程はソフトウェアに委ねられました。JPEG画像をArtec Studioへアップロードするだけで、AIフォトグラメトリー機能が自動で処理を実行。プロポーションや色味、細部のディテールまで自然な仕上がりのウォータータイトな3Dモデルが、手作業によるリトポロジーなどを介さずに完成しました。
03Mimaki 3DUJ-553によるフルカラー出力
できあがったデータは、日本のMimaki Engineeringへ引き渡され、3Dプロダクトマネージャーのマイケル・シッケルス氏がプリント工程を担当しました。Artecから届いたモデルはすでにウォータータイトな状態で、テクスチャも申し分のない品質。プリント用に手直しする工程は一切不要だったといいます。
Mimaki 3DUJ-553による出力には14時間以上を要しました。水溶性のサポート材を用いるインクジェット方式のため、オーバーハング部分への支持材配置もソフトウェアが自動で行い、手作業でのサポート設計は不要です。プリントされた像の内部は、白色の硬化コアを約1mm厚のCMYKWインク層が包み込む構造になっており、最大1,000万色という幅広い色表現を可能にしています。プリント完了後は超音波洗浄機に約4時間浸してサポート材を溶解し、自然乾燥させれば完成です。
白色の硬化コアを覆う約1mm厚のCMYKWインク層。最大1,000万色の色表現を実現する(画像提供:Mimaki)
04文化財保存の新しい選択肢として
これまで彫刻のレプリカ制作といえば、高コストな専用機材によるスキャニングや、型取り・鋳造、あるいは長時間のデジタルスカルプティングが必要な領域でした。今回の事例は、スマートフォンとAIフォトグラメトリー、そしてデスクトップサイズのフルカラー3Dプリンターの組み合わせだけで、専門スタジオに匹敵するリアリズムを実現できることを示しています。
文化財の記録保存にとどまらず、博物館や研究機関、あるいは3Dプリントを学ぶ学生や愛好家まで、裾野の広い活用が見込める点も見逃せません。カメラ一つで高品質な3Dキャプチャの担い手になれる時代が、すでに始まっています。