CASESTUDY 導入事例
Artec JetArtec RayⅡ工業デザイン&製造研究&教育Artec Leo
小田原城をArtec3Dスキャナを活用しデジタルデータ化
2026.06.03 更新
【課題】
特定のプロジェクト要件に合わせ、大型で複雑な産業用機械をカスタマイズすること。今回のケースでは、機械の作業範囲(リーチ)を広げるため、標準よりも長い「ロングリーチ油圧アーム」の取り付けが求められました。
【結果】
文化遺産施設全体を、一体化した高精細な点群データとして構築しました。施設の大部分はArtec Jetでスキャンし、石垣や装飾などの細部はArtec Ray IIとLeoを用いてより高精度に計測しています。作成された高密度な3Dデータは、バーチャルミュージアムツアーとして活用できるほか、日本を代表する文化財である小田原城の状態を継続的にモニタリングし、保全・維持管理に役立てることができます。将来にわたり、その価値を後世へ伝えていくための重要なデジタルアーカイブとなります。
■ ソリューション
■ Artec 3Dを選ぶ理由
Artec Jetは高い機動性を備え、バックパックに装着して歩くだけでスキャンが可能です。地上から最大300mの範囲を短時間で計測でき、高層の構造物を含む広大な施設全体をわずか数分でキャプチャします。一方、Artec Ray IIとLeoは、細部まで高精度に計測できるため、文化財の長期モニタリングや損傷評価、修復計画のためのデータ取得に活用されています。

小田原城の入口をArtec Jet 3Dマッピングでキャプチャしたもの。
小田原城:日本の歴史へといざなう場所
小田原城が築かれたのは500年以上前ですが、その起源は鎌倉時代に築かれた最初の砦にまで遡ります。鎌倉時代は武士が台頭し、日本初の武家政権が誕生した歴史的な時代として知られています。
小田原城の由緒ある城壁には、幾重にも重なる歴史の足跡が刻まれています。丘の上に築かれ、堀に囲まれた堅固な要塞であったことから、戦国時代には重要な戦略拠点として幾度も争奪戦の舞台となりました。特に1561年から1590年にかけては、小田原城を巡る大規模な攻防が三度にわたり繰り広げられています。
その後も約100年にわたり、城主の交代とともに城の姿は幾度となく改修・拡張されました。歴代の権力者たちは、それぞれの時代の思想や技術を反映させながら、小田原城に独自の歴史を刻み続けてきたのです。
小田原城の歴史を守り続けることは、決して簡単なことではありませんでした。1703年から1853年にかけて発生した複数の大地震は城に大きな被害をもたらし、さらに19世紀後半には明治政府による廃城令の影響で、多くの城郭建築が取り壊されました。その結果、小田原城も大部分が失われることとなりました。
1938年には、残されていた城跡が文化財に指定され、復元・再建に向けた取り組みが始まります。しかし、小田原城は現在もなお、継続的な調査や修復、維持管理が欠かせない貴重な歴史遺産です。
こうした背景を受け、日本を訪れていたArtec 3Dのサポートチームは、小田原城を未来へ受け継ぐため、Artec Jet、Artec Ray II、Artec Leoを活用して城全体のデジタルアーカイブ化を実施しました。高精細な3Dデータとして記録することで、文化財の保存・管理や状態監視に役立てるとともに、次世代へその歴史的価値を伝えることを目指しています。
城全体をわずか数分でスキャン
現地に到着したエンジニアたちは、プロジェクトのスケールの大きさをすぐに実感しました。かつて中世日本最大級の要塞の一つだった小田原城は、外周の防衛ラインだけでも約9kmに及びます。さらに、国の史跡として一般公開されているため、来場者の立ち入りを制限してスキャン作業を行うことはできませんでした。
こうした条件の中では、計測のスピードと周囲への影響を最小限に抑えることが重要でした。もちろん、Artec Ray IIを三脚に設置し、LiDARスキャナーとして各地点から計測を行う方法も考えられました。しかし、人の往来がある環境では、移動する人物を除去するために複数回のスキャンが必要となり、膨大な時間がかかってしまいます。
そこで採用されたのがArtec Jetです。バックパックを背負って歩くだけで広範囲を短時間に計測できるため、一般公開中の施設でも効率よくデータを取得できます。小田原城のような広大な史跡をデジタル化するうえで、Artec Jetは最も実用的で効率的なソリューションとなりました。

小田原城の中心にある寺院をArtec Jetでスキャンした画像
デバイスをバックパックに装着して城内を歩くだけで、観光客のように敷地内を移動しながら空間全体をスキャンできました。Artec Jetのリモートアプリでスキャン状況をリアルタイムに確認できるため、細かな部分の取りこぼしを防ぎながら効率よく作業を進められます。これにより、従来の短距離用スキャナと比べて、測定にかかる時間を大幅に短縮することができました。
「Artec Jetは移動した軌跡に沿って連続的にスキャンします。2分歩けば、2分でスキャンが完了するイメージです。対象物の複雑さに左右されにくいのも特長です」と、Artec 3DのスキャンスペシャリストであるKeynan Tenenboim氏は説明します。
「Leoが2〜3枚の壁をスキャンしている間に、Ray IIは建物1棟をスキャンし、Jetは城全体のデジタル化を完了しました。さらに、Ray IIとLeoは、アクセスしにくい場所や、城壁、門、中庭などのエリアを高精細に記録するうえで大きな役割を果たしました。」
Artec Jet、Ray II、Leoの組み合わせ
木々や川、広い通路といった周辺環境は、現場全体の状況を把握するうえで重要な情報ですが、必ずしも高精度な計測は必要ありません。Artec Jetはこうした背景データの取得に適しており、連続した点群データを生成しながら、歴史ある城壁や装飾的な屋根、中庭など、城内の主要なエリアを一つのデータとしてつなぎ合わせていきました。
また、最大300メートルのスキャン範囲を備えるJetは、脚立や足場を使用することなく、地上から城内の構造物を効率よくキャプチャすることができます。計測作業は周囲の観光客にほとんど気づかれることなく進められました。
固定した位置から計測を行うRay IIに対し、Jetは移動しながらスキャンできるため、アクセスが難しいエリアにも柔軟に対応できます。Ray IIとJetはいずれもLeoほどの精度はありませんが、それぞれ異なる強みを持っています。これらのデータを組み合わせることで、広範囲の形状と細部の情報を両立した、高品質な3Dデータを構築することができます。

今回のプロジェクトでは、Ray IIを用いて内庭や城門をスキャンし、Leoは入口裏の狭小エリアなど、細部のスキャンに活用されました。また、近接した中世の城壁の計測にも活用されました。タイルの装飾模様や刻まれた文字、さらには城壁内部の構造に至るまで、細かなディテールを一度のスキャンで高精度に取得しています。
「このプロジェクトは、3種類のスキャナそれぞれの強みを示すのに理想的な事例でした」とテネンボイム氏は述べています。
「天守は「Leo」にはあまり適しておらず、「Ray II」でも十分に対応できませんでした。また、建物の正面全体を約100メートル離れた位置から見渡せるような撮影アングルもありませんでした。しかし、「Jet」は広いスキャン範囲を持っていたため、地上からでも全体をカバーできました。さらにドローンにJetを搭載すれば、屋根部分のスキャン精度をさらに高めることも可能でした。ただしその場合は、現場での事前準備がより多く必要になります。」
文化遺産の保存から実用的な活用へ
スキャン作業を終えたエンジニアたちは、データをクラウド経由でArtecのルクセンブルク本社へ送信し、「Artec Twins」で処理しました。
大規模データの処理に特化して設計されたArtec Twinsは、「Artec Jet」「Ray II」「Leo」で取得したスキャンデータを統合できるソフトウェアです。統合されたデータは、統一された点群データとして出力できるほか、「Autodesk Revit」などの業界標準プラットフォームで利用可能な3Dメッシュとしてエクスポートすることもできます。

Artec Leoでキャプチャした城外壁の細部
生成された3D点群データは、バーチャルミュージアムツアーの構築に活用でき、訪問者が小田原城を仮想空間で自由に探索できるようになります。
また、定期的にデータを取得することで、施設管理者は現地の状態を継続的にモニタリングすることも可能です。例えば、伝統的な屋根が沈み始めている場合でも、早期に変化を検知し、迅速な修繕対応につなげることができます。
さらに「Artec Jet」は、手持ち・バックパック・ポール・ケージ・ロボット・車両・ドローンという7つのモードで運用でき、さまざまな環境に対応します。これにより、複数の機材を組み合わせた従来のワークフローを1台で代替することが可能です。
今回の小田原城のスキャンは、Artecにとってまだ始まりに過ぎません。今後も、スキャン対象となる場所は数多く残されています。


