株式会社 データ・デザイン Artec3D|ハンディ型スマート3Dスキャナ

CASESTUDY 導入事例

Artec RayⅡアート&デザインArtec Studio

舞台裏:万博のためにルクセンブルク大公宮のキャプチャ

2026.02.02 更新

【課題】

ルクセンブルク大公国の最も賑やかな地域の一つにある複数の建物からなる宮殿複合施設全体を、VR/ARアプリケーションに十分な詳細でスキャンする。

【結果】

大阪万博でルクセンブルクの歴史を紹介し、世界中の来場者と専用アプリを通じて共有するための、非常にリアルで完全な3Dモデルの作成。

■ ソリューション

Artec RayⅡ

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Artec Studio

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■ Artec 3Dを選ぶ理由

Ray IIは最長130メートルの距離から大規模な構造物をスキャンするために、迅速かつ簡単に設置できます。AIフォトグラメトリはドローンによる写真、動画のキャプチャをサポートし、Artec Studioにより、この二つのデータセットは組み合わされ、見事な詳細なモデルが完成する。

 

世界万博に向けた「ルクセンブルクのデジタル化」という打診を受けた際、Artec 3D社のサポートチームは高揚感に包まれました。3Dスキャン技術の限界に挑み、自国の魅力を世界に発信する絶好の機会を得たからです。しかし、最短かつ最も効率的な手法を模索する中で、いくつかの困難にも直面しました。

当初、チームは高解像度スキャナ「Artec Spider II」を用いて、宮殿のシュガーモデル(砂糖細工の模型)のデジタル化を試みました。Spider IIはその緻密なディテールを見事に捉え、実物さながらの外観を再現したものの、その複製データは、真の意味での「1対1(原寸大)の3Dモデル」製作に不可欠な、形状面での厳密な正確さが不足していたのです。

ルクセンブルク大公宮の砂糖製モデルをスキャンするArtec Spider II

 

「近道」が通用しなかったことで、Artecチームに残された道は大公宮そのものを直接スキャンすることだけでした。しかし、この手法にも課題がありました。Artec Ray IIは広大な空間や大型オブジェクトのキャプチャに極めて優れていますが、三脚設置型であるため、高所からの死角はどうしても避けられません。そこでチームは、ドローン撮影を活用できるArtec Studioのフォトグラメトリ機能を組み合わせて対応することにしました。

次の課題は、観光客で賑わう歴史的遺産の周辺で、いかにドローン飛行を実現するかという点でした。チームは大公宮の第一参事官との面会に臨み、粘り強い交渉の末、ようやく飛行許可を取り付けることに成功したのです。

そして最後に立ちはだかったのが、絶え間なく行き交う歩行者の存在でした。人気の観光名所ゆえに現場は常に混雑しており、3Dデータのキャプチャにおいて、細部の欠落やモーションブラー(ブレ)を引き起こす原因となります。しかし、慎重を期した二重のスキャンに加え、Ray II内蔵の視覚慣性システム(VIS)とArtec Studioの高度なアルゴリズムがその威力を発揮。チームはついに、圧倒的なスケールと緻密なディテールを兼ね備えた3Dモデルのキャプチャに成功しました。その仕上がりは、没入感溢れるVR(仮想現実)コンテンツとしてそのまま活用できるほど、極めてリアルなものでした。

シンプルなスキャニングで、完璧な成果

プロジェクトを支える3Dスキャニングの専門家によれば、Ray IIによるデータキャプチャ自体は、実はそれほど困難な作業ではなかったといいます。Ray IIに搭載されたVIS(視覚慣性システム)が、3D空間内でのスキャナの位置を正確に追跡してくれるため、あとはあらゆる角度から撮影できるよう、機器の設置場所を順次変えていくだけで済むからです。専門家も「この現場での私の役割は、基本的にはスキャナを各ポイントへ移動させ、ボタンを押すことだけでした」と語っています。

難点は、巨大な構造物全体を捉えるための「距離の確保」にありました。Ray IIは10メートル離れた位置からでも最大1.9ミリメートルという極めて高い精度を誇りますが、今回は大公宮に近づきすぎると、建物の一部が死角となり、他の部分を隠してしまったのです。そのため、施設全体を視野に収めるには、建物から約20メートルほど距離を取り、複合施設の周囲を大きく回り込みながらスキャンを繰り返す必要がありました。

ルクセンブルグ大公宮の完成3Dモデル

 

Ray IIによるスキャンの間、チームのメンバーはエリア上空でドローンを操縦していました。事前に飛行許可は得ていたものの、その作業は決して簡単ではありません。大公宮の周囲には複雑な道路網が入り組んでおり、わずかな操縦ミスも許されない緊迫した状況でしたが、最終的には現地の全容を完璧にキャプチャすることに成功しました。

パイロットを務めたメンバーは、「ドローンの操縦はゲーム感覚で楽しめましたし、意外なほど直感的に動かせました」と振り返ります。「静止画でキャプチャする利点は、ノイズを抑えた極めて高精細な画像が得られる点にあります。Artec Studioは動画から3Dモデルを生成することも可能なので、今回は万全を期して画像と動画の両方を撮影しました。スピード重視の箇所は動画、より精密な再現が求められる箇所は画像、といった具合に使い分けることができるからです」

Artec Studio上で異なるデータセットを組み合わせる

現在、Artec Studioは、構造化光、レーザー、LiDARスキャナ、さらにはフォトグラメトリによって取得された3Dデータセットのキャプチャから処理、結合までを一括して行えるオールインワンのツールとなっています。3Dスキャンデータと画像や動画を統合する際、まずは3Dメッシュを生成する必要がありますが、今回のRay IIによるデータ処理においても、VIS(視覚慣性システム)による事前位置合わせの効率化がプロジェクト成功の要となりました。

「Ray IIのVISシステムは、事実上すべてのスキャンデータを全自動で位置合わせしてくれます。そのため、Artec Studioにデータを読み込んだ時点で、各スキャンデータはすでに正しい位置にほぼ配置されているのです」と専門家は付け加えます。「バラバラな100個のスキャンデータが表示されるのではなく、最初から一つのオブジェクトとして画面に現れます。我々が重視したのは、システムが自動で行ったこの高精度な位置合わせを活かし、その整合性を最大限に維持しながら作業を進めることでした」

ルクセンブルグの遺跡地『Hollow Tooth(『虫歯』の意)』の外に設置されたArtec Ray II。

 

AIフォトグラメトリによる3Dメッシュ生成は、スキャンとは手法が異なるものの、極めて優れた成果を上げることが可能です。Artec Studioのアルゴリズムでは、取り込んだ画像や動画を「モデルプレビュー」として確認でき、範囲を指定するだけで本物さながらの3Dモデルを瞬時に生成します。さらに、これを3Dスキャンデータから作成したモデルと統合することで、広大なスケール感と緻密なディテールを両立させた、より高度なモデルを構築できるのです。

また、Artec Studioは、データの穴埋めや動体の除去、テクスチャマッピング、さらにはポリゴン数を削減する「デシメーション」機能まで備えています。これらすべての工程を経て最終的な仕上げを行いますが、今回のプロジェクトにおいては、VR(仮想現実)での活用を前提としていたため、高い品質を維持しつつデータ容量を軽量化することが不可欠でした。

次世代の文化遺跡保全の受け入れ

Ray II、AIフォトグラメトリ、そしてワイヤレス3DスキャナArtec Leoをはじめとするハンドヘルド機器を併用することで、チームはルクセンブルク・パビリオン向けに、さらに多くの史跡をデジタル化することに成功しました。その中には、片側が切り立った岩壁に面するユネスコ世界遺産「Hollow Tooth(中空の歯)」も含まれています。ドローンでの撮影が不可欠な難所でしたが、そのデータもRay IIのスキャンデータと統合され、あらゆる角度から完璧に再現されたモデルが完成しました。

こうして美しくキャプチャされた数々のモデルは、「大阪万博アプリ」で公開されており、同国の豊かな歴史を世界中の人々へ伝えています。万博の来場者はもちろん、現地に足を運ぶことが難しい遠方の方々も、バーチャルリアリティを通じて、この人気遺産を自由に見学し、その魅力を余すことなく体験できるようになったのです。

Ray IIとAIフォトグラメトリでキャプチャされた、Hollow Toothの3Dモデル。

 

今回のプロジェクトを通じて、文化遺産の保全だけでなく、あらゆる大規模プロジェクトにおいて、異なる特性を持つ3Dスキャナとフォトグラメトリを組み合わせる手法には、極めて大きな可能性が秘められていることが示されました。これにより、驚異的なまでの「高精度」と「広域キャプチャ」という、相反する要素の「いいとこ取り」が可能になったのです。

「この手法は、映画産業やゲーム業界など、従来は形状よりもテクスチャの質を重視していた分野においても、今後広く採用されていくでしょう」と専門家は締めくくります。「3Dスキャンデータとフォトグラメトリを融合させることで、精緻なジオメトリ(形状データ)と、極めて忠実なテクスチャを同時に手に入れることができます。どちらか一方を選ぶ必要はなく、両方のメリットを享受できる。これこそが、真に実用的なソリューションなのです」

Artec 3D社は、大阪万博のルクセンブルク・パビリオンにおけるこの革新的な製作に貢献できたことを、心から光栄に感じています。



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