CASESTUDY 導入事例
ジェネレーティブデザインで設計した救命ドローン
小笠原設計事務所
2021.06.17 更新

これまでにない有機的なデザインが印象的なレスキュードローン「X VEIN」。被災地での行方不明者捜索や人命救助に役立てたいという想いを、3D の力を使って形作ったものだ。
生み出したのはデザインエンジニアの小笠原佑樹さん。「Fusion 360 だからこそ実現できた」理由とは何か。
契機は東日本大震災
フリーのエンジニアとして人命救助や災害支援に適したオリジナルドローンの開発や電動義手の設計を行っている小笠原佑樹さん。レスキューや医療福祉の分野に興味を持ったきっかけは、都立の高等専門学校に入学する直前の 2011 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災であったという。
「当時は高専でロボット工学を研究したいと思っていました。そんな矢先に東日本大震災が発生して、被災地の映像を見て衝撃を受けたんです。自分がものづくりをするのであれば、誰かの役に立つものが作りたいということで義手など医療福祉機器を研究することを決めました」
高専に入学後、メイカームーブメントの登場でドローンや 3D プリンタに注目が集まる中、災害時の行方不明者の捜索などにドローンが使えないかと考えた小笠原さん。2012 年には友人の粂田瞭さんとマルチコプターの開発に着手、2015 年には自作のドローンで「全日本学生室内飛行ロボットコンテスト」に参加し、見事マルチコプター部門で優勝を果たす。
そうした実践を通じてドローン開発ノウハウを蓄積していった小笠原さんたちであったが、現状のドローンをそのまま災害用に応用するには難しさも感じていたという。それというのも、組み立て済みで提供される市販の機体は軽量化を優先したものが多く、形状をカスタマイズしたり強度や安全性を確保することが難しい。一方、航続時間や機能を求めれば機体は高価で重たいものになってしまう。小笠原さんらは、自分たちの目標を実現するために、新たなコンセプトでドローンを“再発明”する必要性を感じていた。
3D でしか作れない
高専の 5年次に、東京・秋葉原の「DMM.make AKIBA」に拠点を置くイクシー株式会社でインターンとして参加した小笠原さん。同スペースで開催されたイベントでオートデスクの最新テクノロジーに触れ、最適な構造設計をコンピュータで自動的に行う「ジェネレーティブデザイン」の手法に出会う。Fusion 360 を本格的に使い始めたのもこの頃だ。
軽量かつ強固、カスタマイズ性に富んだこれまでにないドローンの実現には、従来の設計手法にとらわれず 3D モデリングと 3D プリンタによる設計が欠かせないことを確信した小笠原さんは、粂田さんに加えイクシーのデザイナー小西哲哉さん、さらにはオートデスクやワコムなどの協力を得て「X ベイン(X VEIN)」プロジェクトを始動させる。
まずは、デザイナーである小西さんがスケッチしたデザイン画を元に、エンジニアである小笠原さんがモデリングを行った。ときには Fusion 360 のスクリーンショット画像にデザイナーの思い描くイメージを書き込むなどして、実現可能なプロポーションのすり合わせを何度も繰り返した。エンジニアとデザイナーがシームレスにコミュニケーションできるのも Fusion 360 の利点だという。
「当初から 3Dプリンタを最大限利用した設計にするというプランでした。金型を使うわけではないので、Fusion 360 でモデリングできる形状であればどんなものでも出力できます。そこで、X ベインではプロペラガード、モータのマウント、ランディングギアが一体化した流線型のフレームを設計することになりました」
大まかな外形が固まったところで「スカルプト(彫刻)」の機能で詳細な形状を作り込んでいくが、当初は不慣れなことから、サポートフォーラムを頼っていたそう。
「粘土をいじるような操作なので、感覚的に行ってしまうと歪みが生じます。面の連続性を保って工業デザイン風にスッキリと見せるには多少コツがいりました」
モックアップを 3Dプリンタで出力して全体形状を確認後、いよいよ機体を軽量化する切り札であるジェネレーティブデザインによる「ラティス構造」の組み込みを開始した。
X 状に伸びた羽から肉抜きしたい部分を選択し、Autodesk Netfabb で構造解析を実施。提案されたラティスのパターンを模倣して手動で羽根に貼り付けた。
「たとえば 100 ニュートンの荷重に耐えるといった条件を与えれば、ソフトが自動で構造を何パターンも提案してくれます。しかし、そのままの構造では必ずしも人が美しいと感じる形状ではないため、形状のパターンを把握してから Fusion 360 で再構築します」
そして各パーツを組み込んで完成した第 1 号機は飛行に成功したものの、ラティスの構造が密なため空気抵抗が大きく、モータへの負荷がかかり 1 度に 1 分程度しか飛行できなかった。続けて梁の部分を細くし、ラティスの網の目を大きくすることで約 600 グラムという軽量化を実現した第 2 号機はバッテリの限界まで飛行することに成功した。今後はさらなる改良を行い、人命救助用ドローンの実用化に向けていきたいという。
「この Xベイン2 でようやく自分たちの思い描いていたレスキュードローンの姿が形になりました。2D デザイン、3D モデリング、スカルプトなどの機能が統合された Fusion 360 だからこそ、短期間で多くの人たちの力を借りて実現できたと思います」