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試作から少量生産へ、射出成形を代替できるFormlabs 3Dプリント材料の実力とは?
製造業の世界において、ABS、ポリプロピレン(PP)、そしてナイロンは長らく「黄金の3要素」として君臨してきました。これらは射出成形の主役であり、予測可能な機械的特性と高い信頼性から、あらゆる製品のスタンダードとなっています。
しかし、製品開発サイクルが加速度的に短縮され、機能性を備えた「最終製品(エンドユース)」としての3Dプリントパーツへの需要が高まる中、エンジニアに求められる基準が変わりつつあります。単に形状が似ているだけでなく、これらの工業用プラスチックと同じように「振る舞う」材料が必要とされているのです。
Formlabsでは、試作と量産のギャップを埋めるために設計された、機能性レジンの広範なライブラリを開発しました。では、ABSパーツの置き換えや、将来的にナイロンで射出成形・切削加工を行う部品の機能試作には、どのレジンを選ぶべきなのでしょうか?
本ガイドでは、主要な熱可塑性樹脂の特性に基づき、用途に合わせて選ぶべき最適なFormlabs材料を解説します。
ABS

レゴ®ブロックのような、粘り強く剛性の高いABS樹脂の特性を再現したい場合、Tough 2000 Resinが最適です。
ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)は、最も広く普及している熱可塑性樹脂の一つであり、通常は射出成形によって大量生産されます。ダッシュボードやコンソールといった自動車の内装部品から、レゴ®ブロックのような玩具、スピーカーや調理家電の外装に至るまで、私たちの身の回りにある多くの製品に採用されています。また、FDM(熱溶解積層法)方式の3Dプリンタで最もよく使われるフィラメントの一つでもあります。
SLA(光造形)方式において求められるのは、優れた耐久性と剛性を持ちつつも、「脆さ」を感じさせない硬さを備えた材料です。こうした用途において、ABSに最も近い特性を持つのがTough 2000 Resinです。
Tough 2000 Resinで造形されたパーツは、容易に曲がることのない剛性と、衝撃に耐えうる強さを兼ね備えており、長期間の使用にも耐えることができます。ノッチ付きアイゾット衝撃強さについては、射出成形されたABSと比較すると数値は低くなりますが、3Dプリントならではの複雑な設計やカスタマイズ性を活かすことで、そうした物理的な制約をカバーした設計が可能になります。
| 特性 | 射出成形 ABS | Formlabs Tough 2000 Resin |
| 引張弾性率 | 1.6~2.4 GPa | 2.2 GPa |
| 引張強度 | 33~50 MPa | 46 MPa |
| 破断伸び | 10~50 % | 48 % |
| 曲げ弾性率 | 1.6~2.5 GPa | 1.6 GPa |
| 曲げ強度 | 50~85 MPa | 61 MPa |
| ノッチ付きアイゾット衝撃試験 | 150~400 J/m | 40 J/m |
| 熱変形温度 @ 0.45 MPa | 85~105 ℃ | 63 ℃ |
HDPE

HDPE(高密度ポリエチレン)は、シャンプーのボトルや牛乳パック、洗剤の容器などに使われる量産プラスチックとして広く知られています。HDPE製品は、多くの場合ブロー成形で製造され、摩耗や摩擦に対して非常に高い耐性を持ちます。その優れた耐摩耗性から、リビングヒンジ(一体成形の蝶番)や、割れることなく頻繁に曲げたり押し込んだりする必要がある可動パーツに最適です。
HDPEの特性に最も近いFormlabsの材料は、Tough 1000 Resinです。Tough 1000 Resinは、優れた破断伸び、表面の滑らかさ、そして衝撃強度を必要とする部品において、以前まで人気のあったDurable Resinに代わる新たな選択肢となりました。
機械的特性の面では、高熱環境下での使用を除き、ほぼすべてのシナリオでTough 1000 ResinがHDPEの代わりとなります。Tough 1000 Resinは熱変形温度(HDT)がやや低いため、高温下ではわずかに変形しやすいという点には留意が必要です。
| 特性 | HDPE | Formlabs Tough 1000 Resin |
| 引張弾性率 | 0.8~1.2GPa | 0.93 GPa |
| 引張強度 | 20~30MPa | 26.3 MPa |
| 破断伸び | 100~600% | 180% |
| 曲げ弾性率 | 0.7~1.4GPa | 0.76 GPa |
| 曲げ強度 | 20~40MPa | 29 MPa |
| ノッチ付きアイゾット衝撃試験 | 約5.4 J | 13.1 J |
| 熱変形温度 @ 0.45 MPa | 70~90℃ | 55℃ |
ポリプロピレン

摩擦耐性となめらかな柔軟性が求められる状況において
Tough 1000 Resinは射出成形されたポリプロピレンの特性を再現できる代替材料となります。
ポリプロピレン(PP)は、低摩擦、絶縁性、耐薬品性、そして耐衝撃性に優れた素材として広く利用されています。人気の理由は、多様な製造技術に適応できる点にあり、それによって非常に薄いものから剛性の高いものまで、幅広い厚みや硬さのパーツを作ることが可能です。用途は多岐にわたり、注射器や使い捨ての食器、自動車のカップホルダーなどに採用されています。
FormlabsのTough 1500 ResinとTough 1000 Resinは、どちらもポリプロピレンの優れた特性を備えています。一部のPPパーツに見られるような「摩擦耐性」や「滑らかな柔軟性」を再現したい場合は、Tough 1000 Resinが適しています。一方で、より肉厚なPPパーツが持つような「強度」や「耐久性のある剛性」を求める場合には、Tough 1500 Resinが向いています。
Tough 1500 Resinは、コンプライアント・メカニズム(順応機構)や、タッピンねじ・スナップフィットを用いる頑丈な筐体など、剛性と延性のバランスが求められる部品に最適です。破断伸びについては従来の射出成形されたポリプロピレンに及びませんが、引張強度や曲げ強度に関しては、一般的なPP材料を上回る性能を発揮します。
| 特性 | ポリプロピレン | Formlabs Tough 1500 Resin |
| 引張弾性率 | 1.3~1.8GPa | 1.5 GPa |
| 引張強度 | 30~40MPa | 51 MPa |
| 破断伸び | 100~600% | 51% |
| 曲げ弾性率 | 1.2~1.7GPa | 1.6 GPa |
| 曲げ強度 | 35 – 55 MPa | 68 MPa |
| ノッチ付きアイゾット衝撃試験 | 20~100 J/m | 67 J/m |
| 熱変形温度 @ 0.45 MPa | 85~110℃ | 52℃ |
ポリアミド

FormlabsのNylon 11 Powderで造形されたパーツは、化学的には射出成形用のポリアミドと同じものです。
ナイロンとして広く知られるポリアミドは、脆さを感じさせない強靭さと剛性を兼ね備えています。元の形状に「跳ね返る」復元力があり、耐熱性や耐疲労性にも非常に優れています。ポリアミドにはいくつかの異なる構造があり、通常は原料となる構成単位(モノマー)に含まれる炭素数に応じた数字で識別されます。例えば、ナイロン6は炭素数6個の構成単位から、ナイロン12は炭素数12個の構成単位から作られています。
量産されるナイロンの代替として最適なFormlabsの材料は、SLS(粉末床溶融結合)方式のナイロン材料です。強靭で耐久性のあるパーツに適した万能材料のNylon 12 Powderや、より専門的な性能を重視したNylon 11 Powderが挙げられます。さらに、極めて高い剛性が必要なパーツ向けに、Nylon 11 CF Powder(カーボンファイバー強化)のようなナイロン複合材も用意されています。
もし、SLA(光造形)方式のレジンから選ぶ必要がある場合は、ポリアミドのどの機械的特性を最も重視するかによって最適な代替材料が決まります。ポリアミドの特性は多岐にわたるため、「剛性」「耐久性」「衝撃強度」のうち、どれを優先するかを見極めることが重要です。
剛性を求める場合、あるいはフィラー入りや複合材のナイロンを代替する場合は、極めて剛性が高く高密度なRigid 10K Resinが最適です。ナイロン12のような柔軟性や耐疲労性を重視するのであれば、Tough 1500 Resinがふさわしい選択肢となります。また、より「滑り」の良いナイロン6のような特性を求めるなら、Tough 1000 Resinが最も適しています。
| 特性 | 業界ベンチマーク | Formlabs材料 | 主要な比較指標 |
| 耐衝撃性と耐摩耗性 | Nylon 6 | Tough 1000 Resin | 114 J/mのアイゾット衝撃強度:Nylon 6が持つ高いエネルギー吸収性と、独特な「滑り」のある質感を再現します。 |
| 復元力と疲労寿命 | Nylon 12 | Tough 1500 Resin | 1.5 GPaの弾性率:優れた復元力を備えており、繰り返し動作が必要なスナップフィットやヒンジにおいて完璧な性能を発揮します。 |
| 剛性と耐熱性 | ガラス繊維入りNylon | Rigid 10K Resin | 10.0 GPaの弾性率:高い剛性と218°Cの熱変形温度(HDT)を兼ね備え、「たわみ」を許さないパーツに最適です。 |
POM

この製造補助具(生産用消耗品)は、ニューヨーク州オリアンにあるEaton社の拠点で、1個流し生産システムのパーツ搬送用として設計・使用されているものです。もともとはデルリン(写真左)から切削加工されていましたが、現在はFuseシリーズのSLS 3Dプリンターを用い、Nylon 12 Powderで造形されています。
ポリオキシメチレン(POM)は、アセタールや商標名の「デルリン®(Delrin®)」としても知られ、その高い剛性、低摩擦性、そして優れた寸法安定性から、切削加工用プラスチックとして製造現場で極めて高い人気を誇ります。曲がりや伸びに強く、吸湿性も低いため、工場の生産用消耗品や製造補助具(治具)に特に多用されています。
デルリンは「ポリプロピレン(PP)のような延性」と「ABSのような剛性」を併せ持っているため、用途に応じてTough 1000 ResinまたはTough 2000 Resinのいずれかが代替候補となります。
また、Eaton社の事例のように、製造補助具をより大量に生産する場合、デルリン製の消耗品をSLS(粉末床溶融結合)方式のNylon 12 Powderに置き換えることで、材料コストと作業時間を削減しつつ、オリジナルのデルリン製パーツと同等の剛性と耐久性を実現することが可能です。
| 特性 | POM | Formlabs Tough 1000 Resin |
Formlabs Tough 2000 Resin |
| 引張弾性率 | 2.5~3.0 GPa | 0.9 GPa | 2.2 GPa |
| 引張強度 | 60~70 MPa | 26 MPa | 46 MPa |
| 破断伸び | 25~60 % | 180 % | 48 % |
| 曲げ弾性率 | 2.5~3.0 GPa | 0.8 GPa | 1.6 GPa |
| 曲げ強度 | 50~90 MPa | – | 61 MPa |
| ノッチ付きアイゾット衝撃試験 | 50~90 J/m | 131 J/m | 40 J/m |
| 熱変形温度 @ 0.45 MPa | 110~160 ℃ | – | 63 ℃ |
TPU

射出成形用のTPU(熱可塑性ポリウレタン)と化学的に全く同一のレジン(SLA用)は存在しません。しかし、FDM用のフィラメントや、SLS用のパウダーという選択肢があります。例えば、この2つのガスケットはFuseシリーズのSLS 3Dプリンターで造形されたTPU 90A Powderによるものです。これらは「プリント設定エディター(Print Settings Editor)」を活用することで、同一の材料でありながら異なるデュロメータ(硬度)で出力されています。
TPU(熱可塑性ポリウレタン)は、優れた耐久性、耐薬品性、耐摩耗性を備えた柔軟なエラストマーです。振動減衰、フットウェア、そして「曲がっても元の形状に戻る」必要のある部品や衝撃吸収材などに広く活用されています。TPUはショア硬度の調整幅が広く、柔らかい50Aから硬めの90A+まで、製品の用途に合わせて剛性をコントロールできるのが特徴です。
Formlabsでは、SLS(粉末床溶融結合)方式のFuseシリーズ向けにTPU 90A Powderを展開していますが、SLA(光造形)方式の「TPUレジン」という配合の材料は存在しません。しかし、レジンパーツで量産用TPUを代替する場合、柔らかい硬度であればElastic 50A Resin、それよりも少し硬めであればFlexible 80A Resinがその役割を果たします。
| 特性 | 一般TPU | Formlabs TPU 90A |
Flexible 80A Resin |
Elastic 50A Resin |
| ショア硬度 | 50A~95A | 90A | 80A | 50A |
| 引張強度 | 25~45 MPa | 8.7 MPa | 8.9 MPa | 3.4 MPa |
| 破断伸び | 300~600 % | 310 % | 120 % | 160 % |
| 曲げ弾性率 | 30~100 kN/m | 66 kN/m | 24 kN/m | 12 kN/m |
| 曲げ強度 | 20~50 % | 59.9 % | 5.0 % | 3.1 % |
PEEK

極めて高い剛性と強度、そして硬さを備えた材料を求めている場合、Rigid 10K ResinはPEEKの代替となります。多くのFormlabsユーザーは、Rigid 10K Resinを使用して3Dプリント製の射出成形金型(型駒)を作製しており、実際に工業用の射出成形機に取り付けて数千ショットの成形に活用しています。
PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)は、航空宇宙、自動車、医療、インフラ設備などの分野で、金属の代替として使用される工業用の高性能プラスチック(スーパーエンプラ)です。PEEKはあらゆる物性において極めて高いパフォーマンスを誇るため、一つの3Dプリント材料ですべての特性を置き換えることは容易ではありません。構造は異なりますが、近縁の材料であるPEKKは、PEEKと同等の過酷な環境に耐えうる特性を持ちつつ、より加工しやすいという特徴があります。
もし、PEEKの持つ「剛性」を重視し、ある程度の耐衝撃性を許容できるのであれば、Rigid 10K Resinが適しています。また、PEEKのような「高い耐熱性」が必要な場合は、High Temp Resinが最良の選択肢となります。
さらに、医療分野などでPEEKの「生体適合性」を求めているのであれば、Formlabsの生体適合性レジンのラインナップ(BioMed Clear Resin、BioMed White Resin、BioMed Black Resinなど)が理想的です。
| 特性 | PEEK | Rigid 10K Resin | High Temp Resin |
| 引張弾性率 | 3.6 – 4.0 GPa | 11.0 GPa | 2.8 GPa |
| 引張強度 | 90~100MPa | 88 MPa | 58 MPa |
| 破断伸び | 15~40% | 0.7% | 3.3% |
| 曲げ弾性率 | 3.7 GPa | 9.9 GPa | 2.6 GPa |
| 曲げ強度 | 60~250℃ | 238℃ | 238℃ |
| 熱変形温度 @ 0.45 MPa | 3.6~4.0GPa | 11.0 GPa | 2.8 GPa |
工業用プラスチックを代替できるFormlabsレジンはどれか?
ABS、PEEK、ポリプロピレンといった工業用プラスチックが、すぐに3Dプリント材料に完全に取って代わられることはありません。射出成形、ブロー成形、真空成形などの量産プロセスによる製造は、依然として圧倒的なコスト効率と生産性を誇るからです。
しかし、3Dプリンターと材料の技術が進歩し、より高度な要求に応えられるようになるにつれ、消費財から製造補助具、機能性プロトタイプに至るまで、多くの最終製品の現場で3Dプリントパーツが従来の工業用プラスチックを代替し始めています。
Formlabsのレジンは、多くの状況においてこれら一般的な材料の優れた代替となり得ます。各材料は特定の用途に合わせて配合され、必要なパフォーマンスを発揮できるよう厳格なテストを経て開発されています。